「クラウドPBXに切り替えてから、お客様の声が聞き取りづらい」。中小企業のIT担当者から、しばしば耳にする話です。IP電話の音質は、提案書のカタログ値だけでは判断しきれません。入れ替えてから気づくと、回線・経路・社内LANまで巻き戻して調べることになります。

営業部門から「相手の声が小さい」「途切れる」と相次いで報告が上がる──そういった現場の声を、クラウドPBX切り替え後の中小企業からよく耳にします。事前の説明では「クラスA相当の音質です」「HD音声対応です」と書かれていたのに、実利用ではそう感じられない。このギャップは、IP電話の音質がサービス事業者側の品質だけでは決まらないことから生まれています。

音質は、カタログ値よりも構成に左右されます。提案を受ける段階で、品質クラス、音声トラフィックの経路、同時通話数と帯域を確認しておくと、後から「思っていた音と違う」となったときの原因を追いやすくなります。

観点 1:総務省の品質クラスを物差しにする

そもそもIP電話の音質には、行政が定めた共通の物差しがあります。総務省は0ABJ IP電話の品質要件として、R値・MOS値・遅延・パケット損失率を指標とし、クラスA(固定電話相当)、クラスB(携帯電話相当)、クラスC(IP電話相当)の3つに分類しています。

総務省によるIP電話の品質クラス
・クラスA(固定電話相当):R値80超 / MOS値4.0超 / 片道遅延100ms未満
・クラスB(携帯電話相当):R値70超 / MOS値3.1超 / 片道遅延150ms未満
・クラスC(IP電話水準):R値50超 / MOS値2.6超 / 片道遅延400ms未満 出典:総務省「0AB-J IP電話の品質要件」、TR-1054「IP電話の通話品質測定ガイドライン」

R値は遅延とパケット損失率を主な入力値とする総合指標で、パケットがどれだけ遅れずに、欠けずに届いているかを表します。事業者のカタログに「クラスA相当」と書かれていても、それは事業者側の網内測定であり、利用者側のオフィス回線や社内LANを含めた実環境の値とは別物です。提案を受けた段階で、「どの区間を測定した数値か」を確認しておくと、比較の土台が揃います。

観点 2:音声トラフィックが、どの経路を通るか

音質の実値は、結局のところ音声パケットがどのネットワークを通っているかでほぼ決まります。クラウドPBXには、大きく2つの構成があります。

  • インターネット経由型:利用者拠点 → 一般インターネット → クラウドPBX → 一般インターネット → キャリア網。音声が公衆網を2回跨ぎ、メールや動画と同じ網を共有する
  • 閉域網経由型:利用者拠点 → 閉域接続(IP-VPN等) → 事業者のデータセンター → 閉域接続 → キャリア網。利用者からキャリアまで一貫して一般インターネットを通らない

インターネット経由型は導入が手軽である反面、利用者側とキャリア側の双方で公衆網を跨ぐため、ジッタ(パケット到着間隔のばらつき)やパケットロスが二段で重なりやすく、混雑時間帯に音質が振れる傾向があります。これに対し閉域網経由型は、経路全体で音声以外のトラフィックと網を共有しないため、ジッタやパケットロスが起きにくく、音質の安定性で有利です。コールセンター、士業、医療機関、金融など、通話の聞き取りやすさが業務品質に直結する事業者が閉域型を選ぶ理由はここにあります。

クラウドPBXの2つの構成 インターネット経由型 利用者拠点 インターネット クラウドPBX インターネット キャリア網 音声が公衆網を2回通過/ジッタ・ロスが二段で重なる 閉域網経由型 利用者拠点 閉域接続 事業者DC 閉域接続 キャリア網 経路全体が閉域/公衆網を一度も跨がない
図1:典型的なクラウドPBXは音声が公衆網を2回跨ぐ。閉域網経由型は経路全体で公衆網を通らない。

観点 3:コーデックと帯域が、業務量に見合うか

経路に加えて確認しておきたいのが、コーデック選択と帯域設計です。IP電話で広く使われるのは次の3つです。

  • G.711:無圧縮の高音質。1通話あたり概ね80〜100kbpsの帯域を消費する
  • G.722:高域までカバーするHD音声コーデック。聞き取りやすさで定評がある
  • G.729:圧縮率が高く帯域を節約できる(8〜30kbps程度)。音質は若干劣る

同時通話数×コーデック帯域=必要帯域、というシンプルな計算ですが、見落とされがちです。たとえば10ch同時通話のオフィスでG.711を使う場合、音声だけで概ね1Mbps前後が常時占有されます。クラウドストレージの同期やビデオ会議などのトラフィックと合算した上で、上位回線に十分な余力があるか──ここを詰めずに導入すると、混雑時間帯に音声が押し負ける場面が出てきます。

提案段階で「想定同時通話数とコーデック」「業務時間帯の他トラフィック量」「上位回線の保証帯域」の3点をベンダーと文書ベースで確認しておくと、稼働後のトラブルを減らせます。

音質は「設定」ではなく「構成」で決まる

IP電話の音質トラブルは、機材を入れ替えても根本的に解決しないケースがあります。経路と帯域、つまりサービス選定の段階でほぼ決まる部分が大きいからです。提案を比較するときは、カタログ値のクラス表記だけでなく、音声トラフィックが通る経路業務量に見合う帯域・コーデック設計を確認すると、各社の違いが見えやすくなります。

フォースネット株式会社が提供する『VOICE-LINE』は、音声トラフィックを一般インターネットを経由せず、フォースネットの閉域網と自社データセンター内で完結する構成で提供しています。音質の安定性が業務品質に直結するコールセンター、士業、医療機関、自治体などで使いやすい設計です。

参考資料

IP電話の音質改善

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