中小企業のIT周りには、社内ネットワーク、電話、サーバー、クラウド、AIと、複数のベンダーが入っていることが多くあります。それぞれの専門性は高くても、業務側から見ると基盤は地続きです。障害時に「それは別会社の範囲です」と切られると、調整役は社内のIT担当者に戻ってきます。
「電話の調子が悪い」「拠点間の通話だけ品質が落ちる」「クラウドにつながらない」──そういった現場の声が上がったとき、中小企業のIT担当者がまず直面するのは、どのベンダーに連絡すべきかの判断です。社内ネットワークの会社、電話の会社、クラウド・サーバーの会社、それぞれに切り分け前提の問い合わせをする必要があり、調整役の負担が静かに積み重なっていきます。
業務側から見れば、電話もネットワークも、クラウドもAIも、地続きの一つの基盤です。しかし、それを担うベンダーは分かれているのが業界の通例です。分業そのものは悪くありません。問題は、境界をまたぐトラブルが起きたときに、誰が全体を見るのかです。
IT業界は分業構造、しかし業務は分かれていない
国内のIT業界は、ネットワーク機器、PBX、サーバー、クラウド、AI、業務SaaSと、強い専門化と分業のもとで発展してきました。各領域に長年の技術蓄積が必要なため、専門特化したほうが事業として成立しやすいという構造があります。一方、利用する側の中小企業では、その専門ベンダー群を束ねる窓口担当者を社内に置く余力が乏しくなっています。経済産業省の推計では、2030年までに国内のIT人材は最大約79万人不足するとされ、IPAの「DX動向2024」でもDX人材が「大幅に不足」と回答した企業が62.1%にのぼります。
視点 1:分割発注で生まれる「責任の谷」
複数ベンダーに発注すると、それぞれの守備範囲の境界部分で責任の谷が生まれます。たとえば次のようなケースです。
- 拠点間の通話品質が落ちた:回線、PBX、VoIPゲートウェイ、ルーター設定のどれが原因か
- VPN越しで電話が不安定:VPN事業者、PBX事業者、端末ベンダーの誰に聞くべきか
- AI文字起こしの精度が低い:音声経路、コーデック、AIモデル、運用設定のどこに原因があるか
ベンダーAは「うちの装置側は正常です」、ベンダーBは「うちの設定はガイドライン通りです」と、誰も全体を見ないまま時間が過ぎる場面が出てきます。限られた社内IT担当者がこの調整役を担い続けるのは、現実的に重い負担です。
視点 2:「電話とネットワークは別」が成り立たなくなった
かつて電話は専用線とビジネスフォン主装置の上で動き、ネットワーク(社内LAN・インターネット)とは別世界でした。いまの電話はほぼすべてがIP電話で、社内LAN、SIPトランク、VPN、ファイアウォール、クラウドPBXの上で動いています。電話の品質やセキュリティは、ネットワーク設計の影響を直接受けます。逆にネットワーク設計の判断は、電話の動作要件と無縁ではいられません。
「電話屋」と「ネットワーク屋」を分けて考える前提は、技術的には維持しにくくなっています。中小企業の現場で起きるトラブルや改善要望は、両方の領域にまたがるのが普通です。
視点 3:一気通貫で見られる事業者の希少性
ネットワーク基盤からIP電話、さらに近年はAI基盤までを横断的にカバーできる事業者は、国内では限られた数しか存在しません。各領域の専門性が高く、ビジネス的にも特化したほうが効率が良いからです。
しかし、中小企業の現場では「すべてを横断して相談できる窓口」の価値が上がっています。ベンダー間の調整コストを内部で吸収してもらえるだけでなく、「電話を直そうとしてネットワーク全体を再設計する必要が出てきた」というような連鎖的な提案を、一度に受けられるからです。とくに通信キャリアや大規模エンタープライズの基盤に長く関わってきた事業者であれば、業務側の連続性を意識した提案を受けやすい傾向があります。製造業、金融、医療、官公庁、法律事務所など、業務継続性や規制対応がシビアな業種ではとくに重要です。
窓口を一本化できるかを、導入前に見る
中小企業のIT現場で発生する課題は、ベンダーの守備範囲をまたぐことがほとんどです。インフラと電話を別の会社に頼む構造は、平時には合理的でも、障害時には切り分けと調整の遅れに直結します。導入前に見るべきなのは、機能表だけでなく、問題が起きたときに誰が全体を見て動くかです。
フォースネット株式会社は、ネットワーク機器の開発・提供、システムインテグレーション、VoIP電話事業、AI基盤(『閉域AI BOX』)までを一社の中で手掛けています。設立以来15年以上で500社以上の導入実績があり、中小企業から官公庁まで、通信と基盤を横断する案件に携わってきました。
参考資料
- 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(PDF)
- IPA「DX動向2024 ― 深刻化するDXを推進する人材不足と課題」(PDF)
- 総務省「固定電話網の円滑な移行」